――信仰の有無に関わらず、さまざまな場面にスピリチュアル思想が盛り込まれている日本の冠婚葬祭。なんとな~くやり過ごしているものの、中には「アレ? これってありなの?」と思うようなちぐはぐなものも……。長年の海外暮らしで培ったガイジン的視点から、自身の体験をもとに、日本の婚礼を分析してきた映像ディレクター・古川幸卯子が、“子育て”に欠かせないニッポンの儀式について探る第4回。

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(C)yuko kogawa

 日本には、「お七夜」といって、赤ちゃんが生まれた日から7日目の夜に、命名した名を張り出し内輪の親族で集まってごちそうを食べる……という行事があるそうです。

 ふと考えてみれば、「宗教上の聖人」などの名前(たとえばマーク=聖マルコ、ムスタファ=開祖ムハンマドの別名)を命名する国々とは違い、日本では字画で吉凶を占ったり、クリエイティブな当て字漢字で新しい名前を作り出しちゃう……スピリチャルな上に自由度が高くて、私にはなかなか楽しい儀式のように感じられます。  

 そんな日本での「命名」には並々ならぬ気合いを感じますが、しかし、そもそも、「名は体を表す」って本当なのでしょうか?

 ジブリがアニメ映画化したことでも有名なアメリカの児童文学『ゲド戦記』。人々は自分の本当の名前を不用意に他人に知られると魔法で支配されてしまうため、社会ではあだ名で通していて、大事な人だけに自分の本当の名前を教えるーー本当の名前を知っているのは親密の証である、という設定があるファンタジー物語です。

 名前はそれほどまでに、その人そのものと直結している、というお話なのです。

 この、“名前に深い意味をこめる”という考え方は、アメリカよりも、むしろ日本やアジア圏でのほうが理解されやすいかもしれません。名前の発音のみならず、表記される字(漢字)にまでも2重に意味がある文化圏ね。

 私が名前について考えると、なぜか国際的な思い出ばかりどんどん浮かんできます。

 英語圏の土地で台湾人や香港人に出会うと、「私の名前はイェンです、けどキャロルって呼んでください」と自己紹介されて、「なんでやねん!?」ってことがよくあるんです。あれは自分のクリスチャン洗礼ネームを使ったりしていることが多いようですが、ただ好みの英語名の場合もあるとか。

 ロンドンに滞在していた際、知り合いに「きみひこ君」という大変立派なお名前の日本人男性がいたのですが、日本以外の国の方には大変難しい発音だったようで、結局「ケメッヒコ」と呼ばれていました。当然あだ名は「ケメ」です。一見簡単そうな私の名前・ゆうこですら「ユカゥ」という響きに近かったですね。日本人の名前は憶えるのも発音するのも難しい様子。

 さらに、マレーシア人(イスラム教徒)の友人は、自分のファーストネームのあとにくっついてるのはファミリーネーム(姓)ではなくて、自分のお父さんの名前だ、と教えてくれました。日本風に例えるなら「カズオ・ユウコ」とか「ケイスケ・コウタ」ってことですよね!? 往年の芸人コンビっぽい〜! 宗教的に、強い父系社会ってことなんでしょうか。

 そうそう、本を出版してドイツで取材を受けたときの記者さんの名字が「シュナイダー」さんで、マンガ『キャプテン翼』(集英社)世代の私は感動しましたねえ……。フィールドの皇帝、カール・ハインツ・シュナイダーじゃないか! と。あと、大学の同級生にスウェーデン人の男の子がいましたが、彼の名はなんとアクセル。そう、『ベルサイユのばら』のマリーアントワネット妃の恋人だったハンス・アクセル・フォン・フェルゼン伯爵じゃー! 

 なんの繋がりもなかった異国の人も、こうしてひとたび名前を知れば急激に親しく感じられるというのは、すごいことだよね! これぞまさに「名前の魔法」です。名前は、その人自身よりも、産まれた環境の文化背景のほうをヴィヴィットに表現しているものなんですね。

 そう考えると、赤ちゃんの命名に、ジャパンのジージ&バーバたち年上世代親族が熱心に乗り出してくるケースも、理解出来る気がしますね。きっと残したいんだよね、自分たちの“家族”というCULTUREを。次の時代を生きる人間の名前に込めて……。

 だが、そうはさせるか!(ええっ)

 私個人としては、同じ時代に生きる“他人”同士として、子ども自身の人となりや未来の道行きを、親達で勝手に決めずに、まず本人を尊重したいという気持ちがありますねえ。たとえば「優しい子になりますように“優子”」とかは、違うかなあ、と。

 ウチの子には中途半端に親達の希望を込めた名前よりもむしろ、「意味のない名前」を授けたいくらいだよ〜。これが逆に難しい……。すべてが新基軸の人生だろうから、「ニュー」とか。友人達に早速反対されていますが。

 ともあれ、DQNネーム・キラキラネームがどうのなんて批判は、もういらないのではないでしょうか? 特にこの、地球規模で超激動の時代は「どんなキラキラ名前もアリ」と私は思うようになりました。音の響きがステキで、その子に対する掛け値なしの愛情が込められていたら……もうそれだけが揃ってさえいれば、あとはキララだろうがウララだろうが、読みがな・性別・国籍不明だろうが、ドンとこい、と。

 ……と、ふと気になって母にメールで尋ねてみました。

私「ね〜、私の名前ってどういう意味でつけたの?」
母「おおいなる宇宙」

 え? グ、グレート・ユニヴァース……

 ってか、その名前の文化背景ってなに? 松本零士センセイ!?

 さらば地球よ……!!!

【ニッポン豆知識】
・お七夜とは……?

出産日から7日目の夜に行う、赤ちゃんの健やかな成長を願うためのお祝いのこと。平安時代から続く行事で、この日に名前を付けて、社会の一員として仲間になることを認めてもらおうという儀式でもある。

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■古川幸卯子(こがわ・ゆうこ)
1975年、神奈川県生まれ。映像ディレクター、国際マンガ家。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ・ファインアート科卒業。11年間のイギリス滞在を経て帰国。ロンドン時代よりTVCM、ミュージックヴィデオ、アニメーション作品など数多く手がける。著書に、福島第一原子力発電所事故後の東京の日常を描いた『3/11-TOKYO INTERRUPTED-東京一時停止-』(Carlsen Verlag社)がある。
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