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ーー怪談サークル「とうもろこしの会」会長・吉田悠軌が、この夏、絶対に語らねばならない選りすぐりの怖い話をお届けします。

 どうも、オカルト・怪談を研究している、吉田悠軌と申します。

 猛暑です。暑いですね。怪談話でもしましょうか。実際に怖い体験・不思議な体験をしてきた人々から、僕が聞いてきた奇妙なお話の数々。その一部を、この場を借りて皆さんにお届けしようと思います。

 なお文中に出てくる名前は、すべて仮名となっております。では、少しでも暑さを忘れることが出来ましたら幸いです……。

■本当に怖い話……「掃除」

 これは、とあるロックバンドに参加している、マユコさんから聞いた話。

 少し前、彼女はバンド活動に便利な新宿近辺へと引っ越しをしようと考えていた。その時、不動産屋から薦められたのが東新宿にあるマンションの一室。

「新宿駅まで歩けて、こんなに安い家賃は掘り出し物ですよ」

 バンドマンに金持ちはいない。

 マユコさんも例外ではなく、二つ返事でその物件に決めてしまったのだそうだ。

 しかし住んでみてすぐ、奇妙な点に気が付いた。マユコさんのいる3階フロアには、彼女以外の誰も住んでいなかったのだ。確かに、ほかにも部屋はあるのだが、全て倉庫代わりか事務所のテナントなどで、昼間しか人が出入りしていない。つまり夜になれば、住人は彼女1人だけになってしまう。

 少し不安に思ったマユコさんだったが

「ビルの1階に管理人さんも住んでますし、防犯に関しては大丈夫ですよ」

 ……という不動産屋の言葉を信じることにした。

 それでも、夜にバイトから帰ってくれば、自分以外には誰もいない無人のフロアが待っている。静かなのは結構ではあるけど、少し心細い。そのせいだろうか、彼女は毎晩のように変な夢を見るようになった。

 いつも決まって同じ夢で、自分の部屋のベッドで寝ている自分を、天井から見下ろしているというもの。

 なんとなく、これが夢だという自覚はあるようで

(ああ、寝ている自分を夢に見ているんだな)……そう思っているうちに、部屋の隅に見知らぬ女が立っているのに気付く。

 キッチンだったりドアだったり場所はまちまちだが、異様に痩せ細った女が、寝ている自分のことをじっと見つめている。

 夢と分かっているとはいえ、女の佇まいがいやに恐ろしい。なんとか夢から覚めようと身体の力を振り絞ると、ハッとベッドの中で目が覚める。

 ケータイを確認すると、いつも決まって深夜の2時ごろ。

 そして決まって、ドアの外から

 シャッ…シャッ……

 ……と、ホウキで廊下を掃く音がしてくるのだ。

(ああ、管理人さんが掃除しているんだな)

 普通なら、こんな深夜に掃除なんて非常識だ、と怒るところではある。しかし、怖い夢を見た直後でもあり、すぐ近くに人の気配を感じるだけでも、一安心できたそうだ。

 この一連の出来事は、毎晩続いた。

 寝ている自分を見下ろす夢をみる。その部屋のどこかに痩せた女が立ち、ベッドの中の自分を無表情で見つめている。
怖いと思って目を覚ますと、いつも深夜2時ごろ。

 そしてドアの外では、

 シャッ…シャッ……

 ホウキで床を掃く音が響いている。

(なんで、こんな変な夢ばっかり見ちゃうんだろう)

 マユコさんの不安は、次第に募っていった。

 そんなある日、バイトに出ようとしたマユコさんは、マンションの入り口でたまたま管理人と出くわした。

「いつも夜中にお掃除、大変ですね」

 ありがとうございます、という気持ちで話しかけてみたのだそうだ。すると管理人はキョトンとした顔で「え? なんのこと?」と返してくる。

「いえ、いつも夜の2時ごろ、廊下を掃いてくれてるじゃないですか」

「いやあ、そんなはずないよ、俺なんてもう爺さんだから、十時過ぎたら寝ちゃうんだよ」

 テレビの音でも聞き違えてるんじゃない、と言われたのだが、まさかそんなはずはない。だとすると、あのホウキの音はいったいなんなのか……。

 その夜、マユコさんはまた同じ夢を見た。いつものようにベッドに寝ている自分と、それを見つめる痩せた女。ただ、いつもと違う点が一つ。女は、マユコさんのベッドのすぐ枕元にいた。

 寝ている自分の顔を、上からジイッと覗き込んでいる。

 (なにこれ、怖い怖い)

 そう思っているうち、女はいきなり寝ているマユコさんの腕をつかむ。

 そして、ぐいっ、ぐいっと引っ張りだしたのだ。

 マユコさんの体はどんどんベッドからずり落ちそうになってくる。体ごとさらっていこうとしているのか、女は無表情のまま、マユコさんの腕を引き続ける。

(やめて!)

 夢の中で、そう叫んだか、叫ばなかったか。
 
 ふと気付くと、マユコさんは、ベッドから体を起こしている自分に気が付いた。体は冷や汗でぐっしょりと濡れている。

(……なに、今の夢)

 はあ、と溜め息をついた瞬間。

 ぐいっ、と体が横に引っ張られた。

 見ると夢の女がベッドの脇に立ち、ぐいぐいぐいぐい、右腕をつかんで引っ張ってくる。それと同時に、刺すような痛みが腕に走った。

 女の爪はどれも異様に長く延びていて、それがこちらの皮膚に食い込んでいる。

「いやああ!」

 悲鳴をあげて腕を振りほどき、跳ね起きたまま一目散にドアに駆けよって、なんとか廊下に飛び出す。

 走って走って階段までたどり着いたところで、ふっと振り向くと。開け放したままの、自分の部屋のドア。

 そこから、女が四つん這いのようにして上半身だけをのぞかせていた。そして両手の長い爪で床をひっかきながら

シャッ…シャッ…シャッ……

 聞き覚えのある音をたてていたのだった。

 その後すぐ、マユコさんは不動産屋にマンションを引き払う旨を伝えた。すると向こうは質問の一つもせず、即座に敷金どころか礼金まで、全額返してきたそうだ。

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■吉田悠軌(よしだ ゆうき)
怪談サークル「とうもろこしの会」会長。怪談やオカルトを「隠された文化」として収集・研究している。著書に『放課後怪談部』。編集長を務める同人誌『怪処』ではオカルト的な場所を広く紹介。
怪処HP



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