messing.jpg
画像は、『Wolf Messing Jasnowidz z Gory Kalwarii』(Inicjal)より

■スターリンとの出会い

 1940年のことだった。モスクワ郊外に所在する警戒厳重な建物に、ある舞台芸人が連れてこられた。
実は、この日、ベラルーシのゴメリで行われていた出し物は、KGB(ソ連国家保安委員会)エージェントによって突如中断され、芸人は何百キロも離れたこの場所に車で連れてこられたのだ。

 建物の一室で芸人を迎えたのは、威圧的な態度の私服の人物だった。男は冷ややかに言った。

「何か武器を持っているか」

 芸人は、この期に及んでもユーモアを失わず、自分の広い額を指差して言った。

「これが私の唯一の武器庫だよ」

 私服の男は、この言葉にも一切表情を崩さず、事務的に芸人の身体検査を行った。身体検査が終わってすぐ、ある人物が部屋に入ってきた。それはソ連、いや世界中の誰もが知っている人物、当時の独裁者、ヨシフ・スターリンその人であった。

 芸人の名は、昨年ポーランドから亡命してきたユダヤ人、ヴォルフ・メッシング。

 彼が、メッナチス・ドイツの侵攻から逃れてきた理由は、ユダヤ人であるからというだけではなかった。そもそもメッシングとは何者なのか……。スターリンは、メッシングのどういった能力に興味を持ったのだろうか。それを説明するには、それまでのメッシングの人生を振り返る必要があるだろう。

■メッシングの人生とは?

 メッシングは1899年、ワルシャワ近くのゴラ・カルワリアに、ユダヤ人農民の子として生まれた。幼児から夢遊病に悩まされ、父親は眠りながら歩く息子に冷水を浴びせて覚醒させたという。

 一方、記憶力は抜群で、町のユダヤ人学校では6才までに「タルムード(ユダヤ教徒の生活・信仰の基となっている聖典)」を暗記してしまった。教師や父親は進学を進めたが、メッシング本人はそれを拒否して工場で働いていた。

 ある夕方、父にマッチを買ってくるよう頼まれたメッシングが、薄闇の中を戻ってくると、家の玄関前に白装束の巨人のような人影が見えた。この人影が大きな声でメッシングに言った。

「息子よ。私はお前の運命を決するために遣わされた。宗教学校で学ぶのだ。お前の祈りは天国を慰めるだろう」

 メッシングはその場で気を失ったという。そして、父の言うとおり宗教学校に入学した。

 しかしある日、メッシングは見てしまった。宗教学校を訪れた巡礼団の中に、あの日、彼に呼びかけた白装束の大柄な人間が混じっていたのだ。メッシングは、「あの事件は、自分を宗教学校に行かせるために父が仕組んだもの」と判断し、この時を境に無神論者になった。

■11歳で恐るべき“騙しパワー“を発揮!?

 こうして1910年、11才になったメッシングは宗教学校を飛び出し、生まれた町を離れることにした。

 行き先はどこでもよかったから、駅まで歩いていき、たまたま最初に来たベルリン行きの列車に、切符も持たずに乗り込んだ。
 
 客室では、検札を恐れて座席の下に隠れていたが、そんなことで身を隠せるはずもなく、車掌に見つかって切符を求められた。とっさに床に落ちていた紙片をつかんで差し出すと、「車掌がこれを切符だと思うようも」と、一心に念じた。

 すると、奇跡が起きた。紙片を何度も裏返した車掌は、これに鋏を入れて返し、こう言った。

「ちゃんと切符を持っているなら、隠れることないじゃないか」

■“死んだフリ”で一斉を風靡

 ベルリンに出たメッシングは、ユダヤ人街で使い走りをしながらその日暮らしをしていたが、ある日ついに空腹のため倒れてしまった。呼吸も脈拍も感知されなくなった少年は、「死んだ」と思われて死体置き場に運ばれたという。そこで、解剖担当の医師が、ほんのわずかな心臓の鼓動に気づいた。

 メッシングを救ったこの医師は、彼に“身体硬直”を意図的に起こせる能力と、テレパシーの才能があることを見て取った。

 それ以来メッシングは、ベルリンの劇場で“生きた死体”となるパフォーマンスを始めた。一方でテレパシー能力にも磨きをかけ、すぐに「心理学実験」と呼ぶ読心術で有名になった。

 この時の彼の演目は次のようなものだった。

 まず舞台に、身を飾り立てた金持ち役の俳優が登場し、それを悪役俳優が殺害するという芝居が行われる。殺人犯は被害者の持ち物を観客の間にばらまき、それらを観客が自分のバッグの中や椅子の下など思い思いの場所に隠す。ここでメッシングが探偵役として登場し、“すべての物品の隠し場所”を当てるのだ。

 メッシングはこのパフォーマンスで有名になり、世界中でこれを演じた。1915年にウィーンを訪れた際には、理論物理学者アルバート・アインシュタインと心理学者ジグムント・フロイト両名の面前でこの能力を披露した。さらに、1927年にはインドを訪れ、インド独立の父マハトマ・ガンディーとも対面したという。

 メッシングはまた、予言の能力も持っており、ナチスを敵に回したのも彼の予言が原因だった。1937年、ワルシャワの劇場で出し物を演じていたメッシングは、観客に求められてこう予言した。

「ヒトラーが東に向かえば身を滅ぼす」

……と。



【検索ワード】  ・  ・  ・ 



オフィシャルアカウント&モバイル
  • twitter
  • facebook
  • RSS
  • モバイル用
  

ハピズムをBookmarkする
  • HOME
  • オカルト
  • > ナチスが嫌い、スターリンが愛した“史上最も人を騙すことがうまい男”ヴォルフ・メッシングの脅威の騙しパワー