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噴火しないでとは思うけど…

 現在、日本には国連教育科学文化機関(ユネスコ)に登録された世界遺産は16あるが、日本を代表する名峰・富士山が国内17番目の世界遺産に登録されることが確実になった。

 世界的にも「フジヤマ」とし日本の代名詞にもなりつつある富士山が世界遺産に登録されるのは悪いことではないが、意外に忘れられているのは富士山が日本最大の活火山、端的に言えば、いつ噴火してもおかしくない状態にあることだ。

 781年(天応元年)以降、1083年(永保3年)の噴火までは、20~80年に1回の頻度で噴火し、それ以後も1435年、1511年、1707年の3回の噴火記録がある。1707年(宝永4年)の「宝永大噴火」では、富士山の東斜面付近に高温の軽石が飛び散って、家屋や田畑の作物を焼き尽くした。火山灰に至っては約100km離れた当時の江戸でも約5~10cmも降り積もったという。このため江戸の市中では火山灰を吸い込んで激しく咳き込むなど呼吸器疾患の患者が激増したという。
 
 既に宝永の大噴火から300年以上が過ぎている。西暦以降で過去にこれほどまで長期間、富士山が噴火をしなかったことはない。だからといって富士山が活動を停止したと考える専門家は皆無だ。実際、2000年10~12月、2001年4~5月には富士山直下15km付近を震源とし、人が感じない低周波地震(ゆっくりとした周期を特徴とする地震)が集中的に発生した。これは地下のマグマの活動の影響とみられている。その後もこの時期ほど顕著ではないが富士山周辺では同様の低周波地震が観測され、東日本大震災直後の2011年3月15日には富士山頂の南4km、地下15kmのマグマだまりに近い場所を震源とするマグニチュード6規模の静岡県東部地震が発生した。なんと現在もこの地震の余震は続いており、富士山
周辺は警戒が必要なのだ。

  では現時点の富士山で噴火が起きるとどうなるか? まず、宝永大噴火では死者は報告されていない。だが、昔と今とでは事情が違う。現在の富士山は環境省の調べで年間約30万人の登山者がおり、ピークシーズンの7~8月には1日8,000~10,000人の登山者がいる。このピーク時の日中の噴火ならば死者発生は避けがたい。とりわけ過去の富士山の噴火口は山頂付近ではなく、幾分そこから低い場所なので登山者を直撃する可能性は大。さらに国の機関や関係自治体で構成される富士山火山防災協議会が作成した富士山防災マップによると、噴火による温度800℃超の溶岩流は噴火から24時間以内に沿岸部の富士市街まで達する可能性があるとされている。溶岩流の速度は歩行速度とほぼ同じとは言われ、富士市街で逃げ遅れの死者はないと思われるが、それでも市街地は溶岩の猛火に包まれる。また、宝永大噴火では火口から10km地点でなんと20cmもの大きさの噴石が飛んできたという記録があり、頭部などを直撃すれば致命傷だ。

  だが、実は最も大きな被害をもたらすと考えられているのが直径2mm以下といわれる火山灰。溶岩や噴石に比べれば害がないようにも思えるが、これこそが本当の曲者。前述のハザードマップでは富士山麓周辺では最大50cm前後、神奈川県小田原市周辺や、静岡県御殿場市周辺では30~50cm、さらに神奈川県藤沢市、鎌倉市、横浜市西部、静岡県三島市、沼津市、熱海市、東京都八王子市では10~30cm、東京都23区および神奈川県川崎市、横浜市中心部は2~10cmほどは降り積もると見積もられている。

 火山灰は畑や牧草地ならば2cm、田んぼならばわずか0.5mmほど降り積もるだけで1年間は収穫不能になる。これは硫黄など農作物に有害な成分を含むためで、特に葉野菜やお茶などは火山灰の影響で枯れ、田んぼでは土壌が過度に酸性になり、稲の生育に適さなくなる。用水路なども火山灰で埋まって機能しなくなる。また、噴火で上空高く舞い上がった火山灰は気流に乗って広範囲に拡散して日照を遮り、日本全土の農作物の作柄にも影響する。

 さらに宝永大噴火の時代と大きく違うのは、現代は火山灰に極めて弱い機械類が多用され、日常生活を送る上では切っても切れない状態にあること。たとえばスーパーなど利用されている大型冷蔵庫や一般家庭やオフィスで使用されている空調設備は外気を大量に取り込むため、火山灰を吸い込んで故障する可能性が高い。農作物が不作になるに加え、スーパーが営業停止すれば、現代人の食生活は脅かされる。たとえオフィス内や家庭を締め切っていたとしても極小の火山灰は室内に入り込み、家電機器を狂わす可能性がある。とりわけこうしたものに弱いのがコンピューターである。現代でコンピューターが機能しなくなれば、多方面に影響が及ぶのは必至である。

 また、火山灰が積もれば線路や道路はスリップしやすくなり、かつ電車や自動車が火山灰を巻き上げて視界を悪くするため、交通機関は完全ストップとなる。さらに下水道設備も火山灰の流入量が多くなると処理不能になると言われている。こうなれば富士山周辺はおろか首都圏全体が機能麻痺に陥る。世界遺産登録に喜んでばかりはいられないということを肝に銘じておいたほうがいいだろう。



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