先日、六本木ヒルズでやっていたミュシャ展を見に行ったら、途中でさらりと「神智学的な思想を極めるため、フリーメイソンに入会した」と説明されていて驚いた。ミュシャだけでなく、モーツァルト、(シャーロック・ホームズの生みの親の)コナン・ドイルなどある種のインスピレーションを求めてフリーメイソンに入会した世界的著名人は多い。一方で日本ではフリーメイソン(以下、メイソンとも)を世界支配を狙う陰謀団体と決めつけ、ある人物がメイソンに入っていると認めただけで会場から悲鳴があがるような番組が作られていたりする。

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皆神氏似顔絵

 本当にメイソンは陰謀団体なのか、実像はどうなのかを探るため、フリーメイソン研究家で「と学会」運営委員の皆神龍太郎氏に聞いた。

――まず、フリーメイソンに入会するための条件はなんでしょう? 日本ではどんな職業の人が多いんでしょうか?

皆神龍太郎氏(以下、皆神氏) 成人男子であることや、宗教を何か持っていること。これは別にキリスト教でなくともよくて、神道でも仏教でもかまいません。「社会的にちゃんとした人物であること」「年会費を払うこと」ぐらいですかね。2人の会員による推薦が必要ですが、メイソンの知人がいない場合は、ロッジ(集会所)のほうで適当な推薦人をつけてくれたりする場合も。また、結婚して家庭を持っていないとダメと思っている人もいるようですが、独身でもOKです。日本のロッジに登録しているメイソン会員は約2,000人と言われますが、このうち日本人は約1割くらいしかいないようです。実は、多くは在日米軍の関係者なんですよ。著名人も数人いますが、現在は国会議員などはいない、と聞いています。サラリーマンや自営業の人が多いようです。

――普段はどんなことをやっているんでしょうか?

皆神 上の位階に上がることを求める人がいれば、儀式を行うほかは、メンバー間で交流したり、慈善活動などをしているようですよ。私はメイソンというのは次のような近似式であらわせると思っています。

(ヤクザ+新興宗教-犯罪-固有の神)÷2=フリーメイソン

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ロッジの内部

 ここで、ヤクザというのは「疑似血縁関係」の団体という意味です。たとえば欧米では、それまで「ミスター」と互いに呼んでいたのに、入会儀式を受けてメイソンに加入したとたん、呼び方が「ブラザー」(兄弟)へと変わります。つまり、互いに入会儀式によって疑似血縁を結んだということです。もちろん、ヤクザっぽいといっても犯罪行為をしないので、「犯罪」を引いています。新興宗教というのは、自分たちだけの集会所(ロッジ)を持っていて、そこに定期的に集まって互いの結束を強めている、というあたりがとても新興宗教っぽいからです。ですが、どんな神様を信じるかは自由なので、「固有の神」は引いています。

―― 一般のメンバーは何も知らされていないけれど、幹部は情報を交換して、陰謀を巡らせているなんてことはないのでしょうか?

皆神 ははは、そう思う人も多いようですね。しかし、そもそもメイソンではロッジ内で政治と宗教の話をすることは禁じられていますし、各国の大ロッジ(グランドロッジ)は完全に独立しています。つまり、各国のロッジを束ねる “世界ロッジ”みたいなものは存在しないんですね。独立した大ロッジ同士は認証し合ってネットワークを広げていますが、路線や考え方の違いで認証し合っていない例もある。現に、アメリカの独立戦争では英国派・米国派の両方にメイソンがいて戦っていたし、フランス革命でも旧勢力派・市民派の両方にメイソンがいた。米国には各州に1つずつグランドロッジがありますが、それらを束ねた全米グランドロッジを作ろうという試みは、何度も頓挫しています。つまり米国1つすら、ちゃんと束ねられないのに、幹部が手を結んで世界支配を狙うなんて無理じゃないでしょうか。

――海外と日本ではメイソンの扱いがずいぶん違うようですね。日本でメイソン陰謀論が広まった経緯を教えてください。

皆神 日本に最初にメイソンのロッジができたのは1864年のことで、イギリス軍によって作られたロッジでした。当然、日本人は一人も入っていません。その後、日本人が日本国内でメイソンに入れない時代は、太平洋戦争後まで続きます。なぜ日本人が入れなかったのかというと、明治政府とメイソンが「ある密約」を交わしていたからなんです。当時日本では結社の自由はありませんでした。ところが、メイソンの儀式は非公開が原則ですから、日本の警察の立ち合いを認めるわけにはいかない。そこで、明治政府はメイソンが秘密の儀式をやることを認める代わりに、日本人をメンバーに入れないという密約を交わしたんですね。海外ではメイソンはどう見られていたかというと、メイソンがカトリックから危険視されていたという面はあります。メイソンの統一的な組織が発展した18世紀初頭には、世界を股にかけていた団体といえばカトリックしかありませんでした。そこへ、キリスト以外の神でも認めるメイソンが現れたので、カトリックとしては当然メイソンを危険視したんですね。1900年、カトリックの国フランスのリギョールという神父が書いた『秘密結社』という本の訳書が日本で出版されます。この本ではメイソンを「唯物論的陰謀団」としているんですね。この本でメイソンのことを知った日本人が多いと思いますが、つまり、最初からメイソンは陰謀結社として日本に紹介されたわけですね。その後、1921年に「マッソン結社の陰謀論」なる小冊子がロシアから持ち込まれ、全国の中学校校長会に配布されたなんていうこともあって、メイソン陰謀論は日本でどんどん広まっていったんでしょうね。(注:マッソンとはメイソンのこと)

―― アメリカは建国からしてメイソンが関わっているとされますね。なんでアメリカではそんなにメイソンが盛んなんでしょうか?

皆神 『結社の時代』(法政大学出版局)という本に、おもしろい数字が出ているんです。それによると、1896年当時、アメリカではメイソンが75万人いたんですが、それ以外にも「オッドフェロー」の会員が81万人、ピシアス騎士団が47万5000人、労働者連合古代結社が36万1,000人というように、とにかくさまざまな結社があって、成人男性の40%がなにがしかの結社に入っていたというんですね。つまり、アメリカではメイソンが盛んというより、友愛結社ブームがあって多くの男性がどこかの結社に入っていた。成人男性なら、どこかの秘密結社の結社員であって、それが当たり前という時代があったんです。さまざまな結社が生まれましたが、その中でメイソンが生き残り、たくさんの会員を集め続けているというだけのことだと思いますよ。

―― ミュシャのように秘教的な部分を求めてメイソンに入った人も多いんですよね。メイソンの儀式ってどんな内容なんでしょうか?

皆神 メイソンは、もともとはゴシック建築の教会を建てていた職人の団体がルーツではないかといわれています。当初は石工の組合だったのに、のちに職人とは関係のない集団がメイソンを名乗るようになったともされますが、その辺は実ははっきりしません。メイソンの歴史で確かなのは、1717年に、ロンドンにあった4つのロッジが結集してグランドロッジを結成し、それから近代メイソンが始まったということです。当初は、居酒屋に集まって政治談議なんかをしていたようです。その後、組織としての権威づけの部分も大きかったと思いますが、秘密儀式やシンボルマークを取り入れて、オカルト的な部分を発展させていきます。その過程で、エジプト神話や聖書の逸話を取り入れたりして、秘教に関心のある人が引かれるような儀式体系を作り上げていったんでしょうね。

――最後に安直な陰謀論に騙されないためのアドバイスをお願いします。

皆神 日本のメイソンは特にそうなのですが、広報活動に積極的でないこともあり、間違った描かれ方をしても抗議することはまずないんですね。抗議をされないことも、いい加減なフリーメイソン陰謀論がテレビや雑誌にはびこっている背景にあるようです。先日、某都市伝説紹介番組のビル・ゲイツの描かれ方に対し、日本マイクロソフト社が協議を申し入れたと報じられましたね。もうあの番組でゲイツをいい加減な陰謀説をからめて取り上げることはないんじゃないでしょうか。そういう背景を知れば、「都市伝説」の類いは簡単に信じちゃいけないとわかるのではないですか。それと、常識的に考えて、1つの団体が世界征服をするなんてことが可能なのかどうか、冷静に考えてみてください。常識と想像力を働かせれば、簡単に陰謀史観に騙されることはないと思いますよ。
(取材・文 コレコレ)

○参考文献
『結社の時代』(マーク・C・カーンズ著、法政大学出版局)
○皆神龍太郎氏がフリーメイソンについて書いた本
『トンデモフリーメイソン伝説の真相』(有澤玲氏と共著、楽工社)
『検証 陰謀論はどこまで真実か』(ASIOS他著、文芸社)
文庫版『新・トンデモ超常現象60の真相上下巻』(彩図社)絶賛発売中

■コレコレ
スピリチュアル・陰謀論の本を扱う編集者。



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