――信仰の有無に関わらず、さまざまな場面にスピリチュアル思想が盛り込まれている日本の冠婚葬祭。なんとな~くやり過ごしているものの、中には「アレ? これってありなの?」と思うようなちぐはぐなものも……。前回までは、長年の海外暮らしで培ったガイジン的視点から、自身の体験をもとに、日本の婚礼を分析してきた映像ディレクター・市村幸卯子。今回は、そんな彼女が海外生活時代に体験した“摩訶不思議な”婚礼の儀をご紹介しちゃいます!

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(c)yuko ichimura

 かれこれ14年ほど前、私はイギリスでとても忘れられない風変わりな結婚式に参列させていただいたことがあります。友人父の再婚式だったのですが、ロンドン郊外の貸しキャンプ場で3泊4日、参加人数約40名、結婚式のスタイルは「タントリック・セックス」式。

 ん?……パ、パードン?

 新郎である友人父は、当時、「ヨガ教室」とか「合気道道場」に行くかのようなノリで「タントリック・セックス教室」に通っており、新婦はその教師でした。この友人父というのが、若い頃(60年代)に、いわゆる“THE ヒッピー”だったそう。現在でも、気持ちのヤングな愉快な中年男性です。で、どうやら私の友人は、“父とその仲間たちのアバンギャルドなイベント”にも慣れているらしく、「なんかヒッピー系のイベントになると思うから、タイっぽいドレスとか着ていこう」くらいのことしか言ってなかったんです。……おーい!

 そんなわけで、私は事前に「“タントリックなんちゃら”の結婚式」がなんなのかをまったく把握しないまま、参列したのですが……タイ風ワンピースを身にまとった私たちがロンドン郊外のガトウィック空港にほど近いキャンプ場に降り立った時、笑顔で野原を駆けてきた新婦は、すっぽんぽん(全裸)。

 お、おおお!?

 一時期、イギリスではミュージシャンのスティングが実践しているとかで知られていた「タントリック・セックス」。友人父の解説によると、どうやら、インドなどの東洋哲学と、「LOVE, PEACE&SEX」な西洋60年代ヒッピー思想をミックスさせた「性×スピリチャル」の実践型哲学のようでした。参列者のほとんどがお教室の生徒さんで、年齢層は高く、中年から初老の方ばかりでした。しかも、彼らのお仕事は弁護士や医師など、堅くて比較的余裕があるものになぜか偏っていました。ヒッピー事情に詳しい友人の分析では、「イギリスの60年代に、若いヒッピーだったボンボンやお嬢が、当時の気分を引きずったまま中年になった人たちがこの教室には多い」とのこと。

 みなさん親切でおだやかな方ばかりでしたが、すぐ無邪気に全裸になるのでいちいち目のやり場に困っちゃうよ。

 そんなイギリス人の中に1人、Vivian Westwood のTシャツを着た、長髪で年齢不詳の日本人男性がいたので、思い切ってインタビューをしてみました。

「ぶっちゃけ、タントリック・セックスってなんなのですか?」

 彼は、カッと目に力を込めて教えてくれました。

「親との腐った楔を断ぁつ! そして、射精せずに達するようになること!」

 ええ~っ! ちょっと不安なんですけど!

 幸い、私と友人以外にも数名、お教室にまったく関係のない参列客がいたので、その人たちと「すごいわねえ~」と言い合いながら、観察モードに徹することができました(ちなみに、生徒さんは部外者を尊重して絶対に勧誘しないので、居心地よく過ごせましたよ!)。

 そんな結婚式の1日目。まずは男女のグループに別れ、輪になって瞑想のようなことをするのですが、私はこっそり薄目を開けて見ていました。紅いフラメンコドレスに眼鏡の白髪老女性(以下、フラメンコ教頭)が、ぐるぐる回りながら「気を回して~! Circulate your energy!!」と叫びつつ、えっほえっほと“気を耕す”ようなダンスしていました。ちなみにこの時、フラメンコ教頭がかけた音楽は、雰囲気だけはオリエンタルチックなアルバム『エニグマ2』……。

 2日目。ティピ(インディアン式テント)の点在する広大な草原を、ぴらぴらしたタイ風ドレス&半裸&全裸の新郎新婦と参列者が行進する様子は、イギリスの名作カルト映画『ウィッカーマン』のワンシーンのようでした。式の中盤、参列者が新郎新婦の身体に一筆ずつ、ボディ・ペインティングを施します。ローリングストーンズのロゴを描く人がいたりするのは、さすがイギリス60’s経験者。ちなみに私は、新郎のおしりに「ぶどう」を描いた気がします(なんでだ!)。そのあと、2人を密室に置いて、参列者は去る。で、そのままみんなでサンドイッチとかを食べながら2人を待つ……これが“合体式”。

 3日目には「ユダヤ式結婚式」も登場して(新郎新婦はユダヤ系イギリス人だったのです)、もうちょい伝統的な文化面も勉強できる貴重な経験になりました。もはや、どこの国にいるんだかわかんないですね!

 最終日の朝ごはんの頃には私もだいぶ慣れてきて、フラメンコ教頭がハンカチで目頭を押さえながら「この結婚式にあふれる愛のエナジーに感極まり、人生で最高の合体を経験した。時間でいうと、2時間43分」などといらん発表をしたりしても、笑顔でグリルドトマトをかじっていられるようになりました。とはいえ、独特の空気感が息苦しくも感じたので、自宅に着いた時は正直ほっとしたんですけど。

 新郎新婦の信じる文化、宗教、歴史と密接にリンクする結婚式。そのバラエティの豊富さには、本当に驚かされます。つまり、結婚式に参列することは、体験しないとわからない異文化のフィールドワークにもなっちゃうってことですよね!

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■市村幸卯子(いちむら・ゆうこ)
1975年、神奈川県生まれ。映像ディレクター、国際マンガ家。ロンドン大学ゴールドスミスカレッジ・ファインアート科卒業。11年間のイギリス滞在を経て帰国。ロンドン時代よりTVCM、ミュージックヴィデオ、アニメーション作品など数多く手がける。著書に、福島第一原子力発電所事故後の東京の日常を描いた『3/11-TOKYO INTERRUPTED-東京一時停止-』(Carlsen Verlag社)がある。
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