平均的日本人から見れば、登場人物たちはいずれもアクが強く、個性的な信念の持ち主だ。しかし、著者は優劣をつけない。巷のスピリチュアル本との違いは、彼女が「一人の教祖様に心酔する、じつは頭の固い人」ではないという開放的な読後感にあるのかもしれない。著者は、ただ周囲の人々から学んでいる。ハワイ文化を身につけようと腐心する一方、娘には日本的な忍耐力を学んでほしいとも願って。

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子どもたちが大好きな天然温泉プール
(c)岩根愛

 プナの暮らしは、現代日本の反面教師だ。私たちが「人間の作り出したリスク」を受忍せざるを得ないように、かれらもまた「自然のリスク」を受け入れている。しかし、両者のもたらすリスクが同じ舞台上で語れるものではないことは自明だ。

 溶岩に自宅を流されたベスは言う。

「わたしたちが住んでいた家は、この溶岩の30メートル下にある。この手で掘り返して、もう一度あの素晴らしい暮らしに戻りたい(中略)でも、ペレが欲しいというのなら、誰も止めることはできない」

 「ペレ」とは、ハワイ文化における火山の女神である。プナに暮らす人々は、ベスのように皆、リスクを受け入れて暮らしているのだ。そこには、突然姿を現した隠されたリスクに周章狼狽する現在の私たちの状況の打開策が見え隠れする。

 ここまで読み進めると小難しい本だと思うかもしれないが、著者の日常生活にかかわるパートは、もっと軽快だ。

「毎朝6時半に起きてココナッツウォーターで目を覚ましたら、朝ごはんとキサのお弁当を用意。車で学校に送り届け、そのまま職場のヘルスフードストアへ。店のキッチンでオーガニック食材を使った惣菜をつくり、夕方になったらキサをピックアップして、家で夜ごはんをつくり、掃除や洗濯をして……」

 忙しい毎日の合間を縫って、ママ友たちと語り合い、ときには一人で火山の煙を眺める。要するに、パワースポットにも「儀礼だけではなく、具体的な日常がある」ということ。

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マクウ・ファーマーズ・マーケットは日曜の定番
(c)岩根愛

 後半に収録された親切な地図や移動手段、ホテルやミュージアムの索引を使えば、ディープなガイドブックとして使うこともできるし、著者の大好きなコンブチャ(紅茶キノコ)のレシピやハワイ語キーワード解説など、コラムも充実している。

 プナを訪れる時間がない読者でも、つかの間の旅行気分を味わえるだろう。ハワイ島全体ではなく、実験的な暮らしと伝統が入り混じったプナ地区に限定したことで、ハワイ文化の一端を掘り下げる魅力も備えた一冊。

 雑多な内容を読みやすくまとめた、海田恭子(構成ライター)の緻密な仕事も光る。






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