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■今回のオカルト事件
邪悪な魔法使い事件

 2010年12月25日クリスマスの日、英国ロンドン東部のアフリカからの移民が多く住む町フォレスト・ゲートの小さなアパートから、「弟の様子がおかしい」という通報があった。駆けつけた救急隊員は、全身傷だらけの少年クリスティ・バミを緊急搬送したが、彼は病院で死亡が確認された。遺体には101もの傷があり、200個もの痣があった。虐待を疑った警察が捜査した結果、被害者の少年は「邪悪な魔法使い」と決めつけられ殺害されたことが判明した。

 亡くなった15歳のクリスティは、4人の兄弟姉妹と共に、28歳になる姉マガリーと一緒に休暇を過ごすため、パリからやってきたばかりだった。楽しいクリスマス休暇になるはずだったが、マガリーと同棲していたエリック・ビクビの「お前ら全員、ウィッチクラフト(魔術)を使っているんだろう」という言葉で、アパートは地獄と化してしまう。

 エリックは、5人の兄弟姉妹の中で、クリスティと20歳だったケリー、11歳だった妹が「ウィッチクラフトの中心になっている」と根拠なく決めつけた。さらに、「認めないと殴る」と言われ、「はい、そうです」と言ってしまった。その瞬間から、エリックは「ウィッチ(魔法使い)を退治する」と3人に暴力を振るいだし、暴行は4日間、絶え間なく続いたと伝えられている。

 なかでもクリスティは、食事や飲み物も与えられず、眠るのも許されず、ハンマーや鉄の棒などさまざまな凶器で殴打された。まるで拷問のような暴行に耐えられなくなった彼は、「お願いだから、殺してください」と涙ながらに訴えたという。エリックは、この願いを叶えるため、風呂場に張った水にクリスティの頭を押さえ入れ溺死させたのだった。

 今年1月にロンドン英中央刑事裁判所で行われた公判で、暴行を受けたケリーは「クリスティへの暴行がエスカレートしたきっかけは、おねしょでした。弟は濡れたパンツをキッチンに隠したのだけれど、ばれてしまい、それが引き金となってしまったのです」と涙を流しながら証言。「姉とエリックは、私たちをウィッチだと言い張った。違うと繰り返し言ったのに。エリックがクリスティに暴行を加えているとき、姉は表情を変えず、眺めていた。きっと、今でも姉は私たちがウィッチだと信じていると思います」と言い、無表情な姉の顔を見て、「あなたは本当に大バカ者だわ」と言い放った。

 この身の毛もよだつ恐ろしい残虐事件の舞台はイギリスであったが、加害者、被害者、傍観者、全員がコンゴ民主共和国出身者であった。なぜ、こんなことが起こったのか。事件の鍵は、ずばり「コンゴ」にある。

■今なお続く、コンゴの魔術信仰

 アフリカで3番目に広い国土面積を誇る、美しい大自然に恵まれたコンゴ民主共和国。内戦は終結したとされているが、反乱軍、武力勢力が幅を利かせ、今も数多くの人々が命を落としている。戦争だけでなく、飢餓や残虐行為、誘拐され奴隷として働かされること、女性や女児への性的虐待などが日常茶飯事に行われているとも伝えられている。

 そんなコンゴ国民の50%がローマ・カトリック教徒(キリスト教)、20%がプロテスタント(キリスト教)、10%がキンバング教会信者、10%がイスラム教徒、残りが古くからコンゴに伝わる土着、伝統的宗教などの信者だと、米CIAは報告している。伝統的信仰とは精霊崇拝・霊魂信仰と似たようなもので、呪術は日常的に行われるとされている。

 この呪術とは、通常、願いを叶えるために行うものであるらしいが、人を殺すこともできるほど恐ろしい強力なものでもあるという。悪習ともいわれているが、もともと、土地に伝えられてきた宗教的なバックグラウンドを持つため、なくなることはないのだという。

■罪のない子どもたちが魔女狩りのターゲットに

 近年、コンゴで、呪術を操るものたちを「ウィッチ」だといい、「魔女退治」だとして暴行を加えたり、殺害する事件が多発している。2001年にはコンゴ北東部で大がかりな「ウィッチハンティング(魔女狩り)」が行われ、843人が死亡した。キリスト教原理主義に基づく新興宗教の宗教家たちが、金目当てでウィッチ退治、魔女退治を始めたのがウィッチハンティングが急増した原因だともいわれている。しかも、そのターゲットにされのは、何の罪もない、呪術が何なのかも知らないような子どもたちばかり。貧困からくる口減らしや憂さ晴らし目的なのではないかと疑いたくなるケースがほとんどだという。

 コンゴでは予防接種がきちんと行われていないため、ポリオにかかり下半身麻痺の後遺症を持つようになる子どもが少なくない。その子どもたちのことを、親は「異常なのは悪魔だからだ」「ウィッチクラフトだ」と恐れ、虐待した挙句、捨ててしまう。先天的にメラニンが欠乏するアルビノの子も、その外見から「ウィッチだ」と決め付けられ、親によって殺されることが多い。

 病気を抱えている子どもだけでなく、思い通りにならない子どもたちを「ウィッチ」扱いして、虐待し殺すという事件も多発している。2007年にニューヨーク・タイムズ紙は、コンゴやアンゴラで、信じられないほど多くの子どもたちが「ウィッチだ」といわれて殴り殺されていると伝えている。

 2010年2月にはイギリスのBBCラジオが、東コンゴの北キヴ州で、母親が幼い我が子をナイフで刺し殺そうとしたという事件を紹介。男の子は、「ボクのことを魔術師だっていう人がいて、ママはその人の言葉を信じたんだ」と説明。シャツをめくり、「見て、ボクのお腹。ママがナイフで刺して、ボクを殺そうとしたんだ。すごく痛いし、なぜママがそんなことをしたのか、全然わからないんだ」と悲しそうに語ったという。一方で母親は、悪いことをしたという意識はまったくないと伝えられている。

 BBCによると、2008年にこの北キヴ州で約100人の子どもたちが同じように親に殺されかけ、翌年の2009年には4倍以上の450人が被害にあったとのこと。専門家は、「社会的結束のない国だから、コミュニティーの絆、家族の絆というものがない」「だから、何か起こると、すぐに弱い者のせいにして、丸くおさめようとする」という見解を示している。

 イギリスで15歳の少年を「ウィッチ」だとして殺害したエリックとマガリーは、この事件が起こる2年前にも「ウィッチ退治」を行っている。アパートに1カ月間滞在した19歳の友人女性を「ウィッチだ」と決めつけ、虐待していたのだ。女性には爪を噛むくせがあり、エリックは「このくせは魔女である証し」だと言い、女性に対して「3日間、食事も飲み物も飲まずに祈れ」と指示し、「ウィッチクラフトから解放するため」だとして、彼女の自慢だった長く美しい髪をばっさり切ったという。

 今、この瞬間も、コンゴではウィッチハントは行われている。コンゴから遠く離れたイギリスに住むエリックとマガリーだが、祖国で教えられた「ウィッチ」「ウィッチクラフト」への恐怖心、「ウィッチハンティング」から得る爽快感からは、永遠に解き放たれることはないのかもしれない。



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