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こんないかつい風貌でも、スピの世界はウェルカムです

――実力だけでは生き残れないハリウッドという世界に生きるセレブ。彼らを支えているパワーの源、幸運をもたらす見えざる手を分析します。

■今回のターゲット
マイク・タイソン(イスラム教)

 ニューヨーク州ブルックリン区に生まれ、幼少期に同区の中でも治安の悪い地域に移り、犯罪のはびこる街で育ったマイク・タイソン。2歳で父親が蒸発してからは母親に育てられたが、母の交際相手は悪い男ばかりで、殴られる姿を見ながら育ったそう。

 マイクはインタビューで、「ゲットーの子どもたちにとって、最も大切な人間は母親だ。その母親が、黒人の情夫たちに痛めつけられ破滅させられるのを見ながら育つんだ。とにかく憎しみしか育まれなかったね」と語っている。子ども時代のマイクは愛情にひどく飢えており、神というものはなく、その日を強く生きるということだけで精一杯だったのだ。
 
 そんなマイクにスピリチュアルな経験をさせた最初の人物は、彼を世界チャンピオンへと育てた恩師カス・ダマト。早くから盗みを覚え、ストリートで犯罪を重ねるようになっていたマイクは、毎月のように補導されていた。そして、12歳の時とうとう逮捕され、 ニューヨーク郊外にあるトライオン少年院に収監された。そこでマイクは、ボクシングとカス・ダマトに出会う。

 マイクの才能に惚れ込んだカスは、マイクを自宅に住まわせて熱心に特訓をつけた。カスはマイクを受け入れた後、最初の3週間はトレーニングさせずに、みっちりとボクサーとしての心理を教え込んだ。ファイティングは肉体的なものではなくスピリチュアル的なものなのだと感じとったマイクは、自分の中のスピリチュアルな部分に磨きをかけようと努力するようになる。そして、溢れあまる愛情を注いでくれるカスを父親として尊敬するようになり、彼に喜んでもらえる良い息子になろうと生まれ変わったのだ。

 初めて心を許せる相手 を得たマイクは、カスの喜ぶ顔が見たくて試合で猛獣のように戦うようになり、20歳でボクシング史上最年少・世界ヘビー級タイトルを獲得。翌年に、WBA とIBFのタイトルも獲得し、3団体統一世界ヘビー級チャンピオンに輝いたのだった。

 80年代後半は無敵であったマイクだが、カスが死に、最も信頼を寄せていたジム・ジェイコブスを白血病で亡くした後は、自制していたセックスを楽しむようになった。そして、一目ぼれした女優のロビン・ギブソンと88年に結婚。16歳のときに母親を亡くし、妹も心臓発作を起こし死亡、兄とは疎遠だったマイクにとって、ロビンは心許せる唯一の家族となった。
しかし、ロビンは彼の信頼を裏切る言葉をメディアに向けて発し続け、マイクの精神状態は不安定になってしまった。夫婦で出演したTVインタビューで、ロビンは「マイクはひどく短気で、常にDVされているの」「マイクはひどい躁うつ病。クレイジーなの。結婚生活は地獄だわ」と言いたい放題。そして、ロビンの計らいで、悪名高きボクシング・プロ デューサーのドン・キングと組むことになり、ボクサーとしても人間としても転落の一途をたどるようになる。

 ドンはまず自分の教会で、自分が雇った牧師により、マイクの全身を水に浸すキリスト教の洗礼を受けさせた。こうしてマイクは神に誓いを立て、ドンに心身を委ねる決心をしたのだった。そして、ドンはマイクの信頼を利用し金を牛耳り、裏切り続けた。

 そして、1991年には強姦罪で起訴され有罪判決を受け、3年間服役。出所後、WBCとWBA世界ヘビー級タイトルを再度獲得し、2団体統一世界チャンピオンに返り咲いたものの、97年6月に行われたイベンダー・ホリ フィールドとの再対戦で耳を噛み切るという行為に出て失格。2004年の試合でケガをしてからは動きに精彩を欠くようになり、05年、「もうこれ以上、ボクシングを侮辱したくない」と、事実上の引退宣言をしたのだ。

 ちなみに、マイクは98年、ドンが懸賞金をだまし取ったとして裁判を起こし、怒りにまかせてドンのことをボコボコにしたが、「ひどい人間だが、大変だった時期にオレを救ってくれた恩人でもある」という発言もしている。

 ドンのせいで自己破産まで落ちぶれてしまったのに、それでも許す寛大な気持ちを持てるのは、92~95年の間、服役していた刑務所で 出会ったイスラム教の影響だと伝えられている。マイクは強姦罪で有罪になったことで、うそがまかり通る司法に落胆し、このような目にあった自分自身への信頼を失い、ボロボロになっていた。社会を憎悪し、毛沢東やチェ・ゲバラの刺青を入れたのも掘りの中だった。そんな中、刑務所で心穏やかに過ごしている模範的な囚人たちに出会い、彼らの心の平穏はアラーの神によりもたらされていると知り、イスラム教に強い興味を抱くようになった。

 刑務所はケンカが日常茶飯事というひどい場所だったが、マイクは一心不乱にイスラム教を学び、かつてカスから得たスピリチュアルな感覚を取り戻した。アラーの神の偉大さを感じ、イスラムに心酔したマイクは、イスラム教徒の服装をして出所。そして、イスラム教の礼拝堂、モスクに直行。モスクにはモハメッド・アリも来ており、マイクはモハメッドら200人の信者たちとともに祈りを捧げたのだった。

 社会への嫌悪感を持ち続けていたマイクは、出所後もメディアの前やリングでは牙を向くこともあったが、私生活では穏やかな性格になっており、周囲 を驚かせた。「イスラムの教えのおかげで、オレは謙虚で厳粛な人間になれた」という言葉通り、マイクは生まれ変わったのだ。「40歳まで生きれると思わな かった」と語るマイクは、うつから依存するようになったアルコールと麻薬をリハビリ施設に通うことで乗り越え、複数の女性たちの間にもうけた8人の子ども たちの成長を心から楽しむようになった。09年に不幸な事故で娘を亡くしたが、自暴自棄になることなく、イスラム教と純菜食主義で悲しみを克服。10年7 月にはサウジアラビアに渡り、イスラム教最大の聖地メッカと第二の聖地メディナを訪問。ウムラと呼ばれる小巡礼を行った。

 「オレがボクサーだったころは、こうだった、ああだった、って話ばかりする、過去の王者のような人間にはなりたくないんだ。ボクサーの王者になれた経験は素晴らしいものだったけれど、オレは過去の栄光にしがみつくことはしない」と語るマイク。「子どもたちが大学を卒業し、結婚し、孫が生まれるのが 楽しみ。孫ってどんなものか、本当に楽しみだよ」とも語っており、最近はコミカルな仕事を多く請け負っている。長年の趣味だったレースバトを育てるリアリ ティー番組も好評で、マイクの新しい一面を垣間見ることができたと人気を集めている。

 イスラム教により、ずっと目指していた「より良い人間」に近づくことができた、伝説の男マイク・タイソン。アラーの神に守られながら、今後もきっと充実した人生を送り続けることだろう。






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